「秋期限定栗きんとん事件 」米澤穂信 創元推理文庫

秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)

秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)

あの日の放課後、手紙で呼び出されて以降、ぼくの幸せな高校生活は始まった。学校中を二人で巡った文化祭。夜風がちょっと寒かったクリスマス。お正月には揃って初詣。ぼくに「小さな誤解でやきもち焼いて口げんか」みたいな日が来るとは、実際、まるで思っていなかったのだ。―それなのに、小鳩君は機会があれば彼女そっちのけで謎解きを繰り広げてしまい…シリーズ第三弾。(e-honより)

以下シリーズのネタバレあり


前シリーズ「春期限定いちごタルト事件」「夏期限定トロピカルカフェ事件」では全編、主人公である小鳩の視点で語られていました。
それが「夏期」で小鳩君と小佐内さんのカップル、おっと'互助関係'、が解消されたため、この「秋期」では小鳩パートと小佐内パート*1とが交互に登場します。でも小鳩パートは小鳩視点ながら小佐内パートでは小佐内さんと付き合うことになった瓜野君視点で、作品中で起こる事件やもちろん小佐内さんの行動も語られます。小佐内さんの思考は知ることはできず、形式については小鳩君の視点から小佐内さんを見てきた前作までと本質的には一緒と言えるでしょう。

二人が離れることで、却って小市民という本人たちの願い(なのかどうか本当のところは難しいけれど)、そういう蓋のようなものの隙間から二人それぞれの本来の性格がじわじわとあふれ出てきているように思う。

その程度でぼくに謎をかけようなんて、おかしくって話にもならない。

小鳩君の思考、そしてその表現のキレは「春期」「夏期」と同じくらい、いやむしろ五割増くらい。そして今回実は結構すごい仕事をやってのけたものの、あくまで一般人である瓜野からの視点で表現されることによって、小佐内さんの底知れなさが一層強く感じられる。

でも瓜野はまだ気づいてないんだよな。彼女の持ち合わせているのは、二面性どころではなく・・。
やはり可哀そう。

はたして小佐内さんはあの放火事件にどの深さまで関わっているのか。




米澤穂信の公式のホームページ汎夢殿では今月発売の下巻の表紙を見ることができます

『秋期限定栗きんとん事件〈下〉』詳細決まりました: 汎夢殿

*1:よく考えたら「瓜野パート」だけど、まあいいや