『氷菓』 『愚者のエンドロール』 『クドリャフカの順番』 米澤穂信

 古典部シリーズ  
氷菓』『愚者のエンドロール』『クドリャフカの順番』 米澤穂信 角川文庫

 氷菓 (角川文庫) 愚者のエンドロール (角川文庫) クドリャフカの順番 (角川文庫)


 手放しで、面白い!と言える。そんなシリーズ。三作一気読みでした。

 「春期限定いちごタルト事件」や「夏期限定トロピカルパフェ事件」で既に米澤さんの力量はわかっていました。偉そうに言いますが、ああ、わかるぜ、あんだけ面白ければ。わかってはいたけれども、このシリーズで再びノックアウトされました。
 微妙に手が届きそうで、それでいて解けない謎。正解が提示され、「ああ、なんで気付かなかったんだ」と歯噛みする。ぼんやりと読み返していると堂々と張られている伏線を見つけてダブルパンチ。そして次の話でまた騙される。読者冥利に尽きるじゃないですか。

 『氷菓』など特にそうですが、一番最後に明かされる答えに重みがあります。
「謎が解けてああスッキリ」ではなくて、パタンとページを閉じてぼんやり物思いに耽りたくなるというか、ベッドの上で読み終えたなら「あ〜〜〜〜〜〜」と声を上げながらころがりたくなるというか(自分の話)、個人的にはそんな感じです。

 そして何よりこの「古典部シリーズ」、シリーズではあるけれどワンパターンでは決してない。
 『氷菓』では日常の謎系の短編集としての形式をとりながら、読み進めると各々の短編でさりげなく張られていた伏線が最後に結実して短編集ではなく連作短編であることがわかる。これは北村薫の「空飛ぶ馬」が短編集であるのに対して、それへのファンレター的な立ち位置にある加納朋子の「ななつのこ」がただの短編集ではなく実は連作短編であった、その作品のような感じと言える。
 『愚者』では「未完のミステリ映画のオチを推理せよ」というお題で面白い展開を見せる。こちらはあとがきで触れられている通り「ある有名な作品」へのオマージュでありその点で貫井徳郎のとある作品の兄弟といえる(読んだ人はわかります)。ネタバレになるのであまり書けないですが、推理小説のメタ的側面が強い作品となっております。件の「有名作品」は自分は未読ですが(今日買ってきました)貫井さんのものとはまた違った終わらせ方をしておりなかなか良い。
 『クドリャフカ』では古典部のそれぞれ4人の視点から文化祭をさながら中継放送するように話は進みます。こちらは関係ないと思えた幾つかの出来事が一つに収束していくという、ミステリーとしては比較的ポピュラーな手法が取られています(もう少し別の見方ができるかもしれませんね)。

 「日常の謎」系統のミステリーは基本的にシリーズ中、話の動かし方が一貫している物が多い気がするのですが(主観ですが。加納朋子の駒子シリーズで「スペース」は大胆な形式をとっていたりしますし)、このシリーズはむしろ色々な推理小説の形式を意図的に切り替えて書いているように思う。マンネリという言葉からは程遠い。

未読ですがまた違った雰囲気をみせる「インシテミル」を既に刊行されているので今更感漂う感想ですが、DQN風に言って
「あ、ヤベえwwこの人なんでも書けるわwwスゲえwww」
そんな感じです。お粗末さまでした。


まだシリーズはこちらが残っていますね。楽しみです。

遠まわりする雛

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