「ほぼ日」の糸井重里が脳科学者との対談で人間の可能性についてほぼ語り尽くしてきたようです。「海馬―脳は疲れない」(新潮文庫)

海馬 脳は疲れない (新潮文庫)

海馬 脳は疲れない (新潮文庫)

ほぼ日刊イトイ新聞 - 海馬

 対談の本としての良さが前面に出ている本。
 提示される内容はもちろん面白い!けれど要素だけを取り出せば実は様々な所で既に語られている事柄でもある。
ニュートンが林檎が落ちるのを見て重力を導き出したように、普通の人が「つながり」を見つける事の重要性もよく言われることである(そもそも今使った説明自体が使い古された例え)。池谷(いけがや)さんによるあとがきで出てきた「編集作業」という言葉から、少し前に読んでお世話になって(?)いたDESIGN IT! w/LOVEのサイトを思い出す。

 だからといってこの本がありきたりな代物だという失礼なことを書く気はさらさら無い。
 むしろ逆です。

 頭を良くする方法を理屈で語ることはいくらでもできる。それでも――書き手自身がどれほど能力のある人間でも――読み手にも実行出来るようにその具体的な手法を伝えることは難しい(ハズ)。
 本書では脳について、海馬について、その他諸々について対談する過程で、二人は意図しないうちに脳の使い方を実演して見せている。十三時間に及ぶ対談の間とめどなく相手の言葉にまた違う「つながり」を見つけ、それをただちにフィードバックする。
 一人で考えることは難しい。ならば他の人との対話で解決してみよう――そういうことを実際にやっているように思える。

 2人の共同「編集作業」は続く。対談は池谷氏の約2年の留学を経て日本に戻った後にも再び場を持たれ、文庫版にて「追加対談」として収録されている。
 二人の会話はここでも止まらない。
 糸井さんが帰国したばかりの池谷さんを気遣って(というかそういう形をとって)「追加対談」は終わるのだけれどそこでプツンと話題が切れるわけがない。その後も話が続いたのは想像に難くない。
 この二人の興味に終わりは無いように思える。タイトルで「ほぼ」とつけたのはそういうつもり。
 会話でここまでジョイントできる二人の脳が本当に羨ましい。

 この本には頭を良くする具体的で楽な方法が書かれているわけでは無い。そしてそういった物は本から学ぶものでは(きっと)無い。
 読者がするべきであろうことは、この本を起点にして、様々なものの「つながり」を自分で考え、見つける事。

 この二人が本書で実演してきたように。