「水滸伝5」北方謙三 集英社文庫
- 作者: 北方謙三
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2007/02/20
- メディア: 文庫
- 購入: 2人 クリック: 12回
- この商品を含むブログ (62件) を見る
楊志の死
帯にも採用されているこの楊志の言葉がやはり印象的。
父を見ておけ。
その眼に、刻みつけておけ
二竜山に拠り、多くの人望を集めていた楊志がこの巻で死ぬ。これがおそらく北方水滸伝の前半部のクライマックスであり、ここから梁山泊と宋、青蓮寺とが本格的な戦いに入る。
戦争は人が死ぬものだ、という自明な話。もちろんこれまでの少華山や二竜山などでの官軍との競り合いや、闇の軍である致死軍の戦いでも犠牲は出ている。江州での宋江を守るための戦いでも、もちろん。しかし、この先もずっと話を通じて活躍するに違いない、そうにちがいないと読者が思っていた登場人物が戦死をし、もう二度と彼を見ることが出来ないと感じ至らせる事態は、楊志の死が初めてではないか。
そして
さらにこの巻の見るべきおころは楊志の死だけではない。5巻を再び読むことになってそれを改めて気付かされた。
二竜山の頭領である楊志が失われたあと、他の人たちは何を思い、どう行動するか。
楊志の補佐、二竜山の副官である石秀。二竜山の近くを守る桃花山。その頭領である周通。
彼らに楊志は何を遺したか。
楊志の死に合わせ、両山を囲む三万の官軍。
楊志が亡き今、二人の頭領は何を思い、立ち向かうか。何を思い、守るか。
この小説では通常、一つの小章は一人の登場人物によって通して語られる。間違っていなければ5巻の途中まではその形式が守られていた。
しかし、楊志が死に、二竜山が官軍によって囲まれて、官軍が動いた直後の小章でその規則が崩れる。
青蓮寺の手のものが入り込んだ二竜山では火の手が上がり、策を立てた李富は官軍の背後で事態の成り行きを見守る。
二つの視点の方が効果的だということか。一人の人物の視点だけでは描ききれないほど話が動いたということか。
以後、元の形式に戻っているが、その章ではページをめくる手を止められなかったのは確かだ。